2りんかんの社長である石渡さんは、片道100㎞のツーリングのみを楽しんできた“100㎞ライダー”だった。ところが、突然「SSTRに挑戦する」と表明したのです。そこでSSTR参加歴が2回のユーチューバー・こつぶちゃん、和光2りんかんスタッフ・雨宮さんが同行。さてさて、石渡さんの「人生初」はどんなドラマを呼ぶのでしょうか。
チャレンジするSSTRってなに?
今や人気のイベントとして定着していて、知っている方も多いSSTR。でも、知らない人もいるので、改めて説明しておきましょう。
正式な名前は「サンライズ・サンセット・ツーリング・ラリー」で、頭文字を取ってSSTRとなっています。オートバイ冒険家の風間深志さんが考案したもの。「Chasing the Sun」(太陽を追い駆けろ)をテーマに、日の出と共に日本の東海岸を出発。日没の時間までに日本海にある千里浜ドライブウェイへ設置されたゴールを目指します。そのルートも自分たちで決めるので、楽しみ方は無限なのです。
着順などに差があるわけではないので、優劣はつきません。ただ条件をクリアしてゴールし、讃えあいながら感動を分かち合うのみ。途中の道の駅やSA、PAなどでポイントを獲得し、15ポイント以上になればゴールの条件を満たすことになります。
関東の海岸からだとだいたい500㎞ほどを走る計算になります。一日でそれだけの距離を走るのですから、楽ということはないのです。
SSTRは準備から始まる
当日にがんばって走るのはもちろんですが、そこまでの間の『準備』が大切になります。SSTRというイベント自体はそこまで大変な準備はありません。送られてきたゼッケンを貼ること、スマートフォンを使って登録をすることくらいです。
では何の準備が大切になるのかと言えば「一日中走ることを想定した準備」となります。2りんかんでは『SSTRコーナー』を設けて、必要だと思われるアイテムをまとめて紹介していました。そして、SSTR参加の証“リストバンド”を提示すると10%の割引も実施しました。
さて、こつぶさんは日本一周の旅からワープしてきて、レンタルバイクでの参加なので、安全に関わる部分やメンテナンスに心配はありません。
一方、愛車のハーレーで参加する石渡さんは事前に点検とメンテナンスをしておかねばなりません。「2りんかんにお任せしました」と笑う石渡さん。自社のスタッフにお願いできちゃうという点はともかく、信頼できる人に依頼をするのも方法です。特に今回のように「一日に150㎞以上を走るのは初めて」という初参加の方は、予測もしづらい部分があると思います。和光2りんかんスタッフの雨宮さんはセルフチェックに余念がありません。
持ち物準備はコレ!
SSTRに参加するにあたり持ち物の準備は大切です。2りんかんのSSTRコーナーに置いてあるもの、また今回の旅のために用意したもの、あって助かったものを紹介しておきましょう。
サイドスタンドパッド
ゴールの千里浜なぎさドライブウェーは砂浜を走れます。ちょっと停めて記念撮影もできるのです。ただし、そのままスタンドをかけると埋まっていって転倒の危険が高いのです。板などで代用可能ですが、持ち運びが便利でズレにくいこちらは定番アイテムです。
雨宮アイテムUSBコード
雨宮アイテムツーリングサポートゲル
こちらはSSTRコーナーにも置かれていたもの。メーカーが違うと商品名も変わりますが、一般的に「ゲルザブ」と呼ばれているもの。長距離&長時間のライディングですから、シートに座るのもしんどくなりがち。あると楽になります。
雨宮アイテムインナー上下
石渡アイテムパンク修理剤、チェーンロック、折りたたみ杖
ドキドキしながらスタート!
会話は一、富士 二、寒い 三、根性
スタート地点は湘南の海岸。日の出と共に出発したいということで、起床は午前3時で海岸へ向かいました。そしてそろって日の出を眺めて、いよいよSSTRのスタートです!
今回の作戦は、序盤で指定道の駅でのポイントなど多めに稼ぎ、心に余裕を持たせます。そして疲れる後半は「休憩で寄るSAやPAでポイントゲット」というもの。時間を見て、最後にも道の駅をいくつか行けたらラッキーというくらいの考えです。さらに「時間に間に合わなくてもオッケー!」という気持ちを共有しています。安全よりも優先することはありません。無理をしすぎないように、という全員の意識なのです。
最初に目指したのは道の駅足柄、金太郎のふるさとです。指定道の駅なので、3ポイントをゲットできます。高速を使って一気に進んでいきます。少しずつ周囲は明るくなりますが、東から西へ進んでいますので、思ったよりも明るさの変化は小さいもの。やはり「移動する」というのは大きいものなんです。
早朝から走り出しているので、眠気が心配。そこで役立ったのがインカムのSENA(セナ)でした。みんなで会話を楽しみながら進もう、という理由なのですが、眠気覚ましにも効果的。やっぱり楽しく話している方が眠くなりにくいですよね。
一、富士山で盛り上がる
足柄へ向かうということは、富士山へ向かって行くということ。どんどん大きく見えてくる富士山に、大興奮なのはこつぶさんでした。ユーチューブ・こつぶちゃんねるで行っているかなと思いますが、とにかくハイテンションで叫んでいます(笑)。考えてみれば、こつぶさんは九州の方なので、旅に出ないと富士山は見れないのですよね。残りの3名は全員関東出身なので、富士山を眺めるのは日常だったりします。もちろん美しいと思いますし、大好きなのですが、感動が違うのでしょう。
雲が多めな空模様でしたが、途中からどんどん晴れていきます。そうすると富士山がよりくっきりと見えてくるワケです。進行方向に富士山があるというだけで、テンションアップ! 道の駅・足柄でポイントをゲットしたらすぐさま出発! なんともストイックな進行ですが、実は朝ごはんを食べたかったのです。コンビニエンスストアへ急ぎたいのです。何せまだ早朝ですから、道の駅では食べられそうにないのです。
富士山を横目に捉え、会話が大いに盛り上がる
次の目的地はコンビニ。ここで各自の朝食をとって少し休憩します。駐車場から富士山が見える、絶好の休憩ポイントとなります。お腹を満たした後は、ちょっと寒さ対策。5月の末は気温が大きく変わってしまいます。前年は「暑かった」と雨宮さんもこつぶさんも言っていましたが、この日は「寒い!」と叫びたくなるほど気温でした。さっそく持参していたダウンなどをジャケットの下に着込んでいきます。石渡さんは「持ってきて良かったね」と喜んでいましたが、実はこの後にさらに……。
狙ってはいなかったのですが、なんとすぐ近くに道の駅ふじおやまがあるということで、急きょ寄ることに。ここでもポイントを獲得し、すぐに出発します。ここからは高速道路をメインにして一気に進んでいきます。
二、寒さを耐えながら走る!
次は初狩PAでの休憩ということで、高速道路を走っていきます。残念ながらここで富士山は背中方向へと変わっていってしまいました。ここまでのパワーワード「富士山」はなくなりました。
代わりのパワーワードは「寒い!」です。持参した寒さ対策はしていったのですが、さらに寒さは増していきます! インカムでの会話も「寒い!」が大半です。そして全員、鼻の蛇口が壊れてしまったようで、懸命にすする音が聞こえてきます。「これ、もうBGMだね」と笑ってしまいました。こういう辛い経験も、記憶ではなく思い出になるのだから不思議なものですね。
初狩PAに到着すると、石渡さんの表情がこわばっています。とにかく寒いので、レインウエアを取り出し、ジーンズの上から履きます。例え雨予報がなくても、突然の雨や寒さに対応するためにレインウエアは必須アイテムと言えます。「本当に全然違う。レインウエアって大切なんだねぇ」とありがたみを実感する石渡さんでした。
初狩を出たあとは、下道へと進んで「唯一のワインディングエリア」である安房峠へと向かいます。もちろん外せないのはライダーに大人気の『風穴の里』です。バイクが展示されていますし、売店も充実しています。が、今回は誰も見向きもしていません。時間と寒さに頭を支配されてしまっているようです。さっさと出発準備にとりかかります。
安房峠はライダーに人気の場所ですから、平日でもバイクが多いのは普通です。しかし、この日はゼッケンを貼ったSSTR参加者がとっても多いのが特徴的でした。一週間の開催ですから、前日にゴールして戻ってくる人も多いのです。すれ違うと手を振ってくれる人が多くて、心が温まります。特別な会話をするわけでもないですし、ヘルメットをとったお顔も見ていません。それでも、手を振り合って無事を祈る。とっても特別で素敵な体験になると思います。
三、気合いと根性の話をしながら走る
この寒い区間の会話のパワーワード二つ目は「気合いと根性」でした。和光2りんかんでお客様から「SSTRに初めて参加するのですが……」と相談されることが多々あるという雨宮さん。そのアドバイスとは……「気合いと根性です」とのこと。もちろんアイテムをアドバイスした後のことではありますが、これにはみんなビックリ! 寒くても、疲れても、最後は「気合いと根性がありますから!」と答えれば笑いが起きてしまうのです。
ワインディングセクションの安房峠での話に戻りましょう。石渡さんの愛車・ハーレーFLHはワインディングが苦手なタイプ。当然ですがみんなが心配します。「ここだけだから、気合いと根性で乗り切ります!」と力強く言い切って走ってくれました。スピードは控えめにして、景色と道を楽しむ時間は、言葉には言い表せない楽しさがあります。
ここまでに間に数回、こつぶちゃんから石渡さんへ質問がありました。「来年もSSTRに参加しますか?」と。寒さに震えているこの区間までは「もう参加しない」という返答。さて、しつこく質問を続けたら変わるのでしょうか?
飛騨高山に近づくと寒さから解放されて楽しさが増す
時間的にもお昼前ころになり、ちょうど混まないでランチを食べられる時間になりました。ドライブステーション飛騨高山へ立ち寄ります。当初の予定よりは少し遅れているものの、ゴール時間までには余裕があります。ここはしっかりとご飯を食べておかないと、パワー切れしてしまいます。
麺屋惣市に入って昼食。ちぢれ麺が美味しくて、みんな一気に食べてしまいました。みんなお腹がぺこぺこで、しかも美味しいので集中してしまったのでしょう。かなり静かな食事となりました。
ここまで来ると、気温も少し上がってくれています。レインウエアを脱いだりと調整し、再び高速道路を利用してゴール付近まで進んでいきます。長いトンネル、短いトンネルの連続ととにかくトンネルが多いのが特徴。「人生でこんなにトンネル内にいることあったかな?」と人生を振り返ってしまうくらいの数があります。当然、入ったとたんに温かいトンネルもあれば、少し寒さを感じるトンネルもあるわけです。「何が違うんだろう?」とインカムを通して談義が始まりました。
気温も上がってきたところで、今度は脱いで調整。これがロングツーリングでは大切になります。足を痛めている石渡さんを心配する、心優しきこつぶさんです
飛騨河合PAで小休止を入れて、城端PAに入ればもう富山県。かなりゴールが見えてきています。そしてなんと言っても気温が上がってきました。ジャケットの下に着込んでいたダウンなどを脱いで、調整をして次の走行に備えます。ここでも次の準備以外のことにはほとんど時間を使っていません。
いよいよゴールが近づき心に余裕が生まれた
小谷部ICで高速を下りて、道の駅倶利伽羅塾へと到着。かなり時間に余裕があるので、やっと買い食いをしようという気持ちになれてきました。ソフトクリームを堪能します。「疲れた身体に沁みてきますね」とみんな格別な味を楽しむのです。
倶利伽羅塾は指定の道の駅になっているので3ポイントをゲットできます。これで計算上は16ポイントとなって、ゴールの条件を満たしたことになります。万が一計算間違いをしていても、ゴール地点のすぐちかくに道の駅があるので、そこでリカバリーも可能。これで焦る要素はなくなったと言えます。
この日一番長い休憩(食事を除く)をして、いよいよゴールを目指します。北陸自動車道が海沿いになった瞬間に感動が弾けます。「うわぁ!」という声が繰り返されます。そして「たまらん」と呟くのです。
高速を下りれば、あとはもう目と鼻の先と言っても良いでしょう。砂浜に入る前に、サイドスタンドパッドなど必要なものを用意。そして千里浜なぎさドライブウェーへと入っていきます。この入る時が一番危なく、たまに転倒する光景も目撃されるとか。注意をしながら入り、夕日に照らされる砂浜を走ります。
砂浜でバイクを停めて記念撮影。これには全員感動です。またしても「たまらん」のです。そして「これだからまた来ちゃうんですよね」と、雨宮さんもこつぶさんも声をそろえます。では、石渡さんはどうでしょう? 「みんなが参加する気持ちはわかるねぇ。感動するよねぇ」とのこと。来年はどうしますか? と、再びたずねてみました。すると「検討します」と笑顔で返答。なんでやねん! 流れ的に「参加しましょう!」であるはずでしょうよ!
スマートフォンでゴールの操作をしてから、設置されたゴールゲートを駆け抜けます。多くの人が手を振ってくれて、完走を讃えあう感動の瞬間です。「みんなで記念に」と記録係のタテチンも含めて記念撮影もしました。美しい夕日が海に映え、最高のシチュエーションですが「検討します」は変わりませんでした。
ゴール後の余韻は夜まで続く
ゴールをした後は記念品を受け取り、ステージ前へ。するとステージ上へと誘われ、多くの方と感動の共有をしました。夕日を眺め、歓談も楽しみ、宿泊するホテル・イノーバへ。走り切った達成感をずっとかみしめながら就寝へ。特に初めて500㎞オーバーの距離を走った石渡さんはもうヘトヘトのはず。ところが「なんか、揺れてない?」と言い出しました。相部屋だった男性陣は特に揺れていないと伝えると、「なんかさ、三拍子で揺れているんだよ」と。ハーレー独特の三拍子。それはもう船酔いの後遺症とおなじような感じなのでしょう。これもまた余韻なのだと思います。そして数分後には、寝息が聞こえてきました。ちゃんと寝られたようです。
夜明け前から走り、眠りにつく直前まで余韻を楽しめる、長い一日が終わったのでした。